コーヒービター:29

イリスの部屋は私の想像していた通りこざっぱりとした部屋だった。ただ、部屋が広いのは言うまでもない。その理由としてピアノが置いてあってもベッドや勉強机が置けるだけのスペースがあり、それでもスペースがある。一般的な家庭のリビングルームと同じぐらいの広さはあると思う(一般的な家庭っていってもどれだけかはわからないけど)。
「ちょっとベッドにでも座ってて」
イリスはそう言うと、部屋を出て階段を下りていった。おそらくお茶と茶菓子を持ってくるんだろう。
私はベッドに腰掛け、改めて部屋を見回した。座っているベッドもなんだかそこらのベッドとは素材とかスプリングが違う気がする。
部屋は扉付近に勉強机があって、その隣に本棚(170cmぐらいの)が二つある。確認できる限りでは勉強関連のもの、小説(日本語と英語のが半々!)あった。漫画とかは一切ないみたい。
扉の反対側にはベランダに出られる窓張りの扉がある。そこの前にピアノがあって、きっとイリスがここを希望したんだと思う。そよ風に吹かれながらピアノを弾いているイリスが想像できる。
そうこう部屋を見ているうちにイリスがやってきた。トレーに載っているのは紅茶とスコーンだった。
本当にお嬢様だなぁと感じる。そこらへんのお店で買ってきたクッキーやお菓子、ティーバッグの紅茶とかインスタントコーヒーでもてなしている自分が恥ずかしくなってきた。
「はい、どうぞ。」
とイリスはそこらへんにあった小さな机を引っ張り出してトレーを載せた。
角砂糖一つ入れた紅茶を一口飲んで早速私は本題に切り出すことにした。
「で、イリス。早速だけど…」
「うん、わかってるわ。」
カップを机に置いて、私の隣に腰掛けているイリスは真っ直ぐ扉の方を見つめながら口を開いた。
「桜は……いいえ、特に夕日に染まった散ってゆく桜を見ると私は思い出してしまうの。」
私は淡々と語るイリスの言葉を待った。聞き手に徹するつもりだ。
「私は無論、水原の家系の子としてアメリカで生まれた。ただ、そこの点でおかしい部分があるのはわかるわよね?」
イリスが聞いてきたのでコクリと頷いた。『Raincolored』のことだろう。
「それはね、今の私の母は義母で血の繋がった母はアメリカにいるから。」
なんとなく言わんとしていることは予測ができた。
「小学校に入るまでは実の母と父と幸せに平穏に暮らしてたわ。でもね、その時の私はわからなかったんだけど、ある日目が覚めたら父に抱かれて空港にいたわ。私は『ここどこ?』とか『ママは?』って聞いたんだけど父は全く答えてくれなかった。泣いたりもしたんだけど泣き疲れて寝ちゃって、次起きた時には日本に着いてたわ。」
イリスは一呼吸置いた。
「日本に着てからは今の本家に住んでいた。でも母親がいない。幼い頃の私は聞こうと思ったんだけど、父親の表情を見てると聞けなかった。でも時が経って確か13歳の頃だったかしら。」
私はイリスの次の言葉を聞いて驚いた。
「学校から帰ってきて、客間に誰かいるのに気付いて挨拶しに行った。それで客間に入ったら私の父と祖父。祖父の隣には見たことのない女の人がいて、その二人の向かい側に父と外国人の女の人がいた。見た瞬間に誰だかわかったの、母だって。とても重々しい空気だったから私は喜んでいいのかどうなのかわからなかった。でも祖父から言われた言葉で一気に私の心は打ち砕かれたわ。『イリスか、今その女の離婚調停とこいつの再婚することで話をしているんだ。少しばかり部屋に戻っていてくれ。』って」
口調には表れていないけどとてもショックであったことが痛々しく伝わってくる。
「でね、結局そのまま私は部屋に二日ぐらい引きこもってたわ…。部屋から出てから父から色々と聞いた。新しい母や実の母について。私はショックでほとんど耳に入ってなかった。大体わかってるのは、実の母と父は駆け落ちしてアメリカまで飛んでそこで入籍した。それに怒った祖父が無理矢理連れ返した。なんでその時なのかはわからなかったけど、実母を日本まで呼んで、新しい母を紹介したと。籍とかはよくわからないけど、多分私は祖父から嫌われてるのだと思うんだけど、私の籍は実母の籍になって。本当訳がわからないわ。」
イリスの言葉は虚しく広い部屋に消えていった。


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ちょいとこれから色々と二次創作とか、一次創作が入ってくるかもわからないです。。
本当に不定なので今のうち今のうちですね。