コーヒービター:28

ちゃんとイリスの家を見たことがなかった。正門の前まで行くと、その凄さがわかった。表札はもちろんレインコラードじゃなくて、本家の名字の『水原』という立派な文字が刻まれていた。
そして、敷居をくぐるともう別世界であった。日本庭園というのがふさわしいのだろうか、よくテレビとかで見られる純和風の整った庭園が通路の両脇に広がっている。想像以上に凄い豪邸で、ごくごく庶民の私の頭じゃあ思考がおいつかない。
「口、開きっぱなしよ?」
驚きっぱなしの私を見かねたのか、開いた口がふさがらない状態の私を軽く笑って注意してくれた。少し恥ずかしがりながら急いで口を閉じて、イリスの顔を見た。
「普通こんなお家を見せられたら誰だって驚くわよね。」
とイリスは自嘲気味に言った。
そのままてくてくと2分強歩くと(何故家なのに2分強も歩かなきゃいけないの…)、大きい母屋と思われる建物が見えた。「ここが本家よ」と言ってイリスはそのまま脇を通り過ぎて行った。本家といっていたから、イリスの家はちょっと違うのだろう。私はイリスの後をついていった。
少しすると(今度は1分弱ぐらい)、見覚えのある新築のような一軒家が見えてきた。
「ここよ。」
イリスがそう言い、一緒に家に入った。けど入る前に気になったのは表札が本来イリスの家であるなら『Raincolored』と表記されていておかしくないのだけど、そこには違う漢字二文字が表記されていた。
「これもちゃんと話すわ。」
私が表札を見たのがわかっているのであろう。イリスは感情に無駄なものがこもっていない冷静そのものに言った。
家に入ると控えめだけど、上品な良い匂いがした。しかしながら家の中はごく一般的な家であった。家内の人は不在だった。こういうお家であるならメイドさんをつけていてもおかしくはないだろうが、つけていないらしい。
イリスの「どうぞお構いなく」という言葉に甘えてそそくさと二階に上がって、イリスの部屋に入った。

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案外かなり長くなりそうなのでここでカットします。というよりなかなか分が進まないですね。